映画 Match Point

ウデイ・アレン監督「Match Point」(2005年)をレンタルビデオで観る。ニューヨークが得意のウデイ・アレン初めての全編ロンドンロケの作品。彼特有の笑い、皮肉、ジョークなしの映画。ロンドンや郊外の田園の景観が美しい。元プロテニスプレイヤーの貧しいアイルランド人の青年クリス(ジョナサン・リース)が、イギリスの上流階級の娘と結婚し、成り上がって行く過程を描く。しかし、成功には落とし穴がある。 彼は結婚相手の兄(おそらくオックスフォードかケンブリッジ出身)の元婚約者である美しいアメリカ人女優ノーラ(スカーレット・ヨハンソン)と不倫の関係となる。彼女が極めてセクシー。彼女は実生活でも大リーガー、ジータとの関係などがあったらしい。妻との間になかなか子供が産まれないが、不倫相手のノーラは妊娠してしまう。子供を産み、男と結婚すると言い張る女。そして、彼は今の地位を守るため、彼女を周到に殺害する。しかし、警察の追及で彼は逮捕されるかと思うが・・・。意外にも・・・。

妻との間にも子供はでき、彼は警察の追及を逃げ切ってしまう。何とも意外な展開。主役がアメリカでもイギリスでも決して主流派にはなれないアイルランド人の青年。アメリカではケネデイ、クリントンなど著名人がアイルランド系(アイリッシュ)であるが、決して主流派ではない。また、イギリス領北アイルランドは、長年プロテスタントとカソリツクとの抗争があり、カソリックの過激派IRAのテロ組織も活発に活動していた。おそらくロンドンでアイルランド系が社会的に成功するのは極めて難しいのではないか。ユダヤアメリカ人のウデイ・アレンならではの設定ではないか。クリスはおそらく生きてゆく手段として初めプロテニスプレイヤーを選んだのだろう。そして男は会社経営者の娘に気に入られ、上流階級に食い込んでゆく。近代的なオフィス、美しい郊外の別荘を持つ一族。知的で寛容な娘の父。しかし、イギリスは明らかな階級社会であり、階級によって会話の英語も異なり、酒場も異なるという。労働党の首相だったオックスフォード出身のブレアは、典型的なエリートだが、英語はわざと労働者の英語を話すという。この映画はウデイ・アレンのイギリスの貴族的な上流階級に対する痛烈な批判、皮肉があるのだろう。知的で皮肉屋のユダヤ系ニューヨーカーのウデイ・アレンは、絶えず自分のアイデンテイテイを確認しなければならない。マルクスフロイトアインシュタイン、先日死亡したレビイ・ストロースなど、知の巨人たちに流浪の民族、ユダヤ人は実に多い。スカーレット・ヨハンソンも実はユダヤ系である。イギリスのアイルランド系青年の悲劇を描きながら、アメリカの自らを深く考えただろう。決して後味の良い映画ではない。しかし、アメリカの悩みは深い。