神戸 塩屋 海岸の街 異人館

 神戸から西に向かうと、須磨を通過し塩屋までの海岸線から山への急峻な斜面に、かつての西欧からやってきた外国人の建物が見える。南側に海が広がり、明るい景観だ。西欧からやってきた彼らにも、良好な環境だと思ったのだろう。その他、阪神間にはまだ多くの異人館が残っている。神戸北野、元町旧居留地は有名だが、その他、今はほぼ取り壊されたが、芦屋川河口西側にも多くの外国人の屋敷が残っていた。神戸周辺は外国人にとっても、明るい、海と山に近く、開放的で居住するのに好ましいと思ったのだろう。司馬遼太郎は「街道を行く」の神戸編で神戸に居住した外国人の足跡を丁寧にたどっている。この本は神戸を考えるとき、必須の文献ではないか。
 阪神間の風土は、多くの作家たちにも影響をあたえている。谷崎潤一郎は「細雪」で大正時代の阪神間を舞台に、芦屋の波乱の姉妹の人生を描いた。この小説には、この地域を好んだ谷崎の思いが感じられる。村上春樹もそうだろう。西宮香枦園に生まれ、芦屋で育った村上が「風の歌を聴け」でデビューしたとき、この小説を読んで、明らかに阪神間の海岸のにおいを感じたのを覚えている。塩屋には数軒のコロニアル風とでも言うのだろうか、山沿いに建物がようやく残り、1つは、小コンサートなどに使われている。砂浜に面した道路沿いにも、まだ1軒残っているのだろうか。ゆったりとした時間が流れるこれらの建物は、日本の現在の合理的過ぎる個人宅にはないものがある。そのため魅かれるのだろう。日本の里山の藁葺きの家屋に、魅かれるのも、あるいは近いものがあるのかもしれない。イングランド、パリ、トスカーナバルセロナなど、映画の舞台になる街は、魅力的だ。緑と花が多く、季節が感じられる。ヨーロッパの映画を観る楽しみは、その家屋と街並みのの美しさにもあるのだろう。ハリウッド映画にそれはない。かつての魅力を失ったアメリカの今を考えてしまう。