原子力発電と高木仁三郎さんのこと

 巨大地震原発事故は多くの識者が書いているように日本の社会を今後大きく変える出来事だ.今改めて市民科学者として原子力発電に反対した高木仁三郎さんを思い出す.彼は私より2世代以上上で何の面識もない.しかし,原子力発電の技術者を経て大学の研究者として住民運動を関わり,alternativeな科学を指向した彼に強い共感を抱く.原子力資料情報室を立ち上げ,市民科学者として原発に反対し,今から11年前62歳で大腸ガンのため亡くなった.彼の業績は大きなものだったと思う.遺作であろう「市民科学者として生きる」(岩波新書1999年)は私にとって勇気をあたえる著作だった.彼が生きていたらどのような言葉を発したか聞きたかった.彼の求めた科学者の在り方は困難なものだろう.私自身原子力発電に強い反対の立場であったが,この20年余りの科学の発達は,原発のような巨大科学でさえ人間はコントロールできるのではないかと楽観的になりつつあった.しかし,今回大きな誤りであることが証明された.今後市民の間に巨大科学に対する不信や,安易な反科学論が登場するかもしれない.しかし我々は近代科学を全否定できない.今市民は,放射能の危険性に怯え,専門家である科学者のことばを信ずることができないのかもしれない.

今彼が求めたものを先の本から4つ書き写す.
1.人と人,人と自然が相互に抑圧的でないような社会であること.
2.平和的な暮らしが保障されること.
3.公正な社会であること.
4.このような世界が持続可能的に保障されること.
12年前に彼が書いたことは今でも十分に新しく説得的だと思う.
水彩画は夙川のサクラ.明日が満開か.多くの人で混雑するだろう.