庭のネジバナの花のこと

 自宅の庭の芝生にこの数年ラン科のネジバナSpiranthes sinensis が初夏に開花する.風で種子が運ばれてきたのだろう.光の多い乾燥した人為的環境で開花するラン科の花は少ない.夏に葉は消失し,冬に葉を展開する冬緑性である.日本だけでなく海外でも近縁種はあるようだ.面白い花だ.茎がねじれ,花序内で小さなピンク色の花(個花)が下から順に咲いてゆく.観察していると時に小型のハチが訪花する.
 イギリスのNew Phytologistという植物学の雑誌(2011)に日本のネジバナの花の構造と訪花昆虫の関係について報告があるので紹介してみる.ネジバナはおしべ,めしべともにある両性花であるが,おしべがやや先に成熟する雄性先熟である.これは同じ花の雌雄で受粉する自家受粉を避ける仕組みである.また,個花の開花期間は3日程度.その他この花の大きな特徴は,ねじれ具合が個体によってかなり変異があり,個花が隣の個花と小さな角度で隣接しているものから90度の角度で隣接するものまで色々あることである.主要な訪花昆虫はハキリバチのなかまである.花序の大きい(花の数)個体ほど訪花昆虫を強く誘因すること,花序の下の位置の花ほど結実しやすいこと,ねじれの弱い花ほどハチは誘引されやすく,ネジバナの繁殖に有利であることが示されている.しかし,ねじれの弱い花は隣同士の花で花粉を受け渡しする隣花受粉(自家受粉と同じ)の原因となる.ハキリバチは花間をスキップし,この行動はねじれが強いと増加した.つまり,強くねじれた花序は不安定な訪花行動により隣家受粉を減少させる利益があるのかもしれない.このような対立する要因が多様な花序構造を 維持しているようだ. 写真はネジバナに訪花したコハナバチのなかま.