パリ自然史博物館とラマルク (Lamarck)

 今年夏ロンドンの自然史博物館(BM)に行った.中に入ると建物正面の階段踊り場にダーウインの像がある.隣接するダーウインセンターという研究施設もある.進化論の本場イギリスに来たという実感をもつ.数年前の夏,秋のようなどんよりした曇り空の寒い日にパリ大学近くのパリ自然史博物館に行ったことがある.広大な植物園の中に博物館はあった.植物園の入り口正面にはフランスの進化生物学者ラマルクの像がある.ラマルクの像を見てやはりここはフランスなんだなと思ったのを覚えている.博物館の施設は優れたものだと思う.収集された標本,そこで働く研究者など世界的な自然史博物館だろう.しかし,ロンドンのBMに比べて知名度も低いのか訪れる人の数も少なく,そのため落ち着いて見学できる.日本人の姿もほとんど見られない.
 入口にあるラマルクの像は「用・不用説」で有名な博物学者,進化論者.北フランスに1744年に生まれ,植物の研究を行い「フランスの植物誌」を著述し,王立植物園に勤務した.フランス革命の過程で植物園は国立自然史博物館に統合され,博物館で無脊椎動物分類学の研究を行った.「無脊椎」「生物学」という用語も彼の造語とされる.彼は晩年に「動物哲学」を執筆し,この中で「自然界の動物には階層構造あること」,動物の神経系を比較すると「動物が単純なものから複雑なものへと進化している」という進化論を考えた.彼は「神が生命を創り出したものではない」と考えていた.しかし,彼は「生物は一つの共通の祖先から進化したものではなく,別々の種類のものが自然発生した」と考えたようだ.つまり現在のダーウニイニズムとは大きく異なる.また,生物が環境に適応する機構として「獲得した性質は遺伝により子孫に伝えられる」という獲得形質の遺伝(用不要説)を主張した.キリンの首が長い理由は彼の学説でよく説明される.彼の名前は現在ではこの否定された学説の提唱者として有名である.自然選択説であまりにも有名なイギリスのダーウインの進化論(1859年)に比べると全世界の生物学者から攻撃されたラマルクを心情的に支持したいフランス人のメンタリテイを植物園の像に感じてしまう.
参考文献 「生物学辞典」(岩波書店)「天才たちの科学史」(平凡社新書)「はじめての進化論」(講談社)