映画 オーケストラ Le concert

 年始,年末テレビも観ず,どこにも出かけず結構時間ができた.そこで本を読むかビデオの旧作何本か借りて観ていた.その中で良かったのは,この「オーケストラ」(原題Le Concert)だろう.前半はモスクワを舞台にコミカルに,後半はパリを舞台にシリアスに描いている.人をencourage(勇気づける)する映画だと思う.
 1980年頃共産党支配下のモスクワのボリショイ歌劇場の指揮者だったAndrey Simonovich Filipov (Aleksei Guskov)が,時のブレジネフ政権のユダヤ人排斥の動きに反抗して,ユダヤ人の女性ヴアイオリストとチャイコフスキーのヴアイリン協奏曲の演奏を強行.ユダヤ人の彼女はシベリアの収容所に送られ死亡,指揮者は劇場の清掃人となる.しかし,彼は音楽への夢は捨てられず,ひょんなことからパリで予定されたロスアンゼルス交響楽団の演奏が中止となり,モスクワに代わりのオーケストラの依頼が来たことを知り,かつての仲間を集めてオーケストラをでっち上げ,パリでチャイコフスキーのヴアイリン協奏曲を演奏し成功する様子を描いている.ソリストはパリでは売れっ子の Anne-Marie(Mélanie Lauret).しかし,指揮者は長年の下積みの生活とソリストを失った自責の念からアルコール中毒となっており,リハなしでもあり共演相手の彼女にコンサート直前断られてしまう.しかし,彼女の母親は収容所送りになったソリストの娘であり,このことを娘は知らなかった.「コンサートの最後に母親が誰かが分かる」という謎のコメントを残した大男のチェリストのことばを信じ,リハなしで本番に臨む.コンサートは奇跡の成功をおさめて終わる.感動の結末である.
 完璧と言えるヴアイオリンを演奏する演技のMélanie Lauret,落ちぶれた元名指揮者 Aleksei Guskov,多彩な脇役たちの演技が何とも味がある.リハなしで開始したぼろぼろの本番で彼女の天才的なソロ演奏が始まった瞬間「ああ,ブラボーで終わるんだな」と理解できた.心あたたまる映画と言うべきだろう.
 自宅に古いチャイコフスキーのヴアイリン協奏曲のレコードがあったはずと思い出し,探すとニューヨークフイル,指揮 Dimitri Mitroporous,ヴアイリン Zino Francescattiの傷だらけの40年前のレコードが出てきた.聞いてみたが雑音が多いが名演奏だろう.きっとソリストにすごい技術がないと演奏できない協奏曲なんだろうと思う.ソ連時代にも東欧には多数のユダヤ人が在住していただろうし,マルクスレーニンの盟友トロツキーユダヤ人.しかし,スターリン政権以降一貫してユダヤ人は弾圧の対象だったようだ.ベルリンの壁崩壊を控え,当時の政権は統治を強化するため民族排外主義を煽ったのだろうか.ともかくフランスで大ヒットしたのが良く分かる映画だった.スケッチは晩秋の夙川教会付近.