映画 ある天体学者の恋文 Correspondence

封切3日目,土曜の昼過ぎ神戸シネリーブルに行く.場内はシニア層中心で空席が目立つ.前作の監督は「鑑定士と顔のない依頼人」「ニュー・シネマ・パラダイス」などのイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ.この作品は恋愛ミステリーとでもいう分野だろう.脚本もトルトナーレが書いている.主演はイギリスの名優ジェレミー・アイアンズ演ずる世界的な宇宙物理学者エドワードとオルガ・キュリレンコ演ずる弟子で博士課程に在籍する大学院生エイミーの二人の対話で物語は進行する.ウクライナ出身のオルガ・キュリレンコの英語は全く問題がないようだ.舞台はロンドン,エジンバラ,イタリア北部の湖水地方.師弟関係にある二人は恋人同士でもあり,エドはエイミーを溺愛し,エイミーは研究者としてのリスペクトから彼を異性として愛している.しかし,ある日エドは突然エイミーの前から姿を消す.その後エイミーのもとにエドからメイル,動画が続けて送られて来る.エドの死が公表され,エイミーは動転し,生きているのではないかとエドの姿を探し求め,エドの生まれたエジンバラ,別荘のあった北イタリアに向かい彼の手がかりを探す.その間もエドからのメッセージは送られて来る.  
エドは,ガンによる死期が近いことを知り,自分の死後も天体の運動を予測するように,エイミーの行動を予測して,周到に用意したメッセージを送っていたのだ.老いた男が死後も若い恋人と関係を持ちたいという執念とも理解できる.あまりにも愛しすぎたのだろう.
映画は冷涼な北ヨーロッパの街を舞台に美しく描かれ,旅行気分を味わえる.エンリオ・モリコーネの音楽も心地よい.ジェレミー・アイアンズは「リスボンに誘われて」を観て,味のある役者だと再認識,オルガ・キュリレンコは今が旬の女優だろう.学生を演じるには年齢的にやや限界を感じるが,清楚で美しい.映画のスタントをアルバイトにしているという設定も面白く,学者がエイミーに「カミカゼ」と語りかけるのはおかしかった.脇を演ずる役者たちも良い.結末はエイミーの今後を期待できるようになっている.ミステリアスな物語で,当初どのような展開になるか期待したが,終わるとなあんだという感じは否定できなかった.やや期待外れか. 原題は「Correspondence」,ラブレターの文通とでもいうところか.要するに純愛映画であり,邦題にそれ程違和感はない.写真はオックスフォード大学植物園,涼しい夏の一日だった.