庭のスイセンの開花と毒性について

今年の冬は寒かったのだろう.庭のユキヤナギバラ科),スイセンヒガンバナ科)がようやく開花のピークを示している.スイセンの咲く庭の西隅に近づくと,濃厚な甘い匂いがただよう.春の訪れを示すゆえに好ましいと思うが,この匂いの好き嫌いはあるだろう.
学名はNarcissus tazetta.属名は自己愛を示している.手元に「毒草の誘惑」(講談社)というなかなか魅力的な本がある.スイセンなど約40種の有毒植物のスケッチとエッセイを集めたものである.著者はエッセイストの植松黎さん.スケッチはしみずあきこさんである.この本に植松さんはスイセンの種名はnarcosis(麻酔薬による昏睡,麻痺)を語源としているのではないかと述べておられる.
スイセンは球根により無性生殖する多年草植物で,その球根,葉などに毒物であるリコリンを含む有毒植物として有名である.タマネギを収穫して食用にした時,畑に残っていたスイセンの球根が混ざり,子供たちが中毒症状を起こしたという新聞記事を読んだことがある.毒物リコリンについて取りあえずwikiで調べると,アルカロイドの1種で,ヒトへの致死量は約10gであり,かなり弱い毒のようだ.近縁のヒガンバナは秋に水田の脇に派手な赤い花が開花し,アゲハチョウなどが訪花するが,全く種子繁殖は行わない.鱗茎によるクローナルな繁殖のみである.江戸時代,飢饉の時に,ヒガンバナの鱗茎から水にさらし無毒化したデンプンを食用にしたと言われている.大陸から飢饉の時の非常食用として持ち込んだのだろうか.またリコリンは,キク科植物への他感作用(アレロパシー)をもっているとのことである.つまり周辺のキク科植物の成長を妨げるはたらきをもつようだ. アルカロイドはケシ,トリカブト,イモなどの多くの植物に含まれ,動物や細菌類に対する防御物質であり,微量で効果のあり植物にとってコストはかからないある質的防御物質である.それに対してセルロースなどの細胞壁の材料となる多糖類などを多量に必要とするためコストがかかる量的防御物質とされる.植物の多くは有毒物質をもち,食用とするためには,いくつもの工夫や品種改良が必要だった.ナス科のイモ類はその典型だろうか.
 スケッチをすると3本の雄しべに黄色の花粉が多数付着していた.訪花昆虫はいるだろうが,ヒガンバナと同様種子繁殖は行わない.3倍体のためだろう.