庭の哺乳類の糞について


先日妻が庭の隅に見たことのない糞があるとやや興奮気味に,言うので見に行くと,赤い小型の果実や黒い種子を含み,ネコより大型の糞であった.庭で始めてみる糞だ.この糞と同様のものを翌日も庭で見つける.六甲山南側山麓で生息する哺乳類で該当するものを早速ネットに掲載された糞の写真と照合するとどうやらジャコウネコ科のハクビシンのようだ.ハクビシンは中型の哺乳類で外来種とされる.植物食であり,糞の成分と一致しまあ間違いないかなあと思った.念のため哺乳類を研究している某氏に写真を添付してメイルで問い合わせると,ジャコウネコ,アライグマ,テンの可能性はあるが,それ以上は分からないのではとの返事をもらった.赤い果実は,クロガネモチかなとも思ったが,ピラカンサではないかと指摘を頂いた.
 六甲山にはイノシシは多く,以前夜間自宅付近にもよく現れ,庭に侵入し,芝生の根を食ったり,隣の空き地にもフエンスの下から侵入し,雑草の根を食っているようだった.20年程前に昼間にタヌキが庭に現れたこともあった.昨夏深夜庭にアライグマを目撃したと妻が言っていたが,夜間顔だけ見れば,ハクビシンの可能性もあるかなあと思う.この3種は植物を食うわけだ.
 六甲山に生息する哺乳類についての報告を調べると,糞の調査から下記の種類が報告されている(三谷ら2006).ニホンイノシシ,イタチの仲間,テン,コウベモグラホンドギツネ,ニホンリスである.他に筆者が目撃したタヌキ,その他ネット上ではハクビシンアナグマニホンザル,キツネなどが報告されている.芦屋川ではヌートリアの生息がネット上には多く報告されている.市街地で容易に発見できるからだろう.
 外来種とされるハクビシンについて調べると,謎の多い動物でかつては在来,外来かで論争があったようだ.ハクビシンは食肉目ジャコウネコ科に属し東南アジアから南アジアにかけて分布する.日本産と台湾産のミトコンドリアDNAの塩基配列から,台湾産との共通点が多く,これから少なくとも日本産のハクビシンの一部は台湾起源とすることが有力になっているらしい(増田 2011).また中国産の食性は,果実食を中心とするが,日本産では果実以外にゴミあさり,ナメクジなどを食し,雑食の傾向ももつようだ.しかし,食肉目の動物が果実食に特化しているのは興味深い.自宅の糞の正体は不明だが,自宅の糞には明らかに果実食であることを示し,多数の黒色の種子を含み,種子散布にも貢献しているのではないかと思われる.

三 谷 雅 純・横 山 真 弓・岸 本 真 弓(2002)痕跡調査と糞分析から見た果実結実期(9 月,10 月) の六甲山における哺乳類の空間分布と採食.人と自然13:57-66
増田隆一(2011) ハクビシンの多様性科学 哺乳類科学51:188